<Age4>

<Age4>
ママが死んだらドーナルの?

和歌にとって1番身近である「私」の死について、
いつか聞いてくるだろう、いつ聞いてくるだろうか?
その時はこう答えようと、その日を心待ちにしていた。

死をハッキリと意識しだしたのは、
幼稚園年中にさしかかった4歳の時。
幼稚園の帰り道でお葬式に出会った日だった。
その日習った歌を歌いながら、元気にスキップして通る道。

遺影を横目でチラッ!と見ると
口を閉ざして、うつむきかげんに早足私の手をひっぱり、
先へ先へと走るように通り過ぎようとした。

いつも
「いってらっしゃい」
「お帰りなさい」
声をかけてくれたおばさんの遺影。

寝る前のお話をしたりする楽しい時間。
その日は口を閉ざしたまま、天井をみつめていた。

私にはすぐわかった。
昼間見た光景が頭に焼きついていたのだろう。
幼心なりに考えに考えた上で、決心したかのように口を開いた。

「ねえ、お母さんが死んだらどうなるの?」

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「あなたの目には見えないの。
でもね。いつもちゃーんと、あなたのそばに居るのよ。
縁日のお祭りの時、浴衣着るでしょう。
帯が結べなくて困っていると、後からそっと手伝うの。
アララララ、不思議、スルスルとひとりでに結べるのよ。
縁日で金魚すくいをすると、不思議なほど金魚がいっぱい。
あなたの脇にしゃがんでママも金魚すくい。
ユウレイって手も足も動くのがとっても速いの。
風よりも速いのよ。」

「フーン。じゃあ、軍太にはどんなユウレイ?」
「『また冷蔵庫を開けたままそんなところでつまみ食いして』
手をピシャン!
冷蔵庫がひとりでに閉まる。
あけるとまた閉まる。
軍太が夜中にトイレに行くでしょ。
ママが先に入って
『軍太見たなー』
軍太がギャー」

ここで和歌はゲラゲラと笑い出す。
「悪い子には本当に見えるユウレイ」

「パパには?」
「パパは毎晩ビール飲むでしょ。
パパには見えないけど、ワキに坐ってるの。
あれっ?
コップについだはずのビールがないの。
つぐと、またなくなるの。
ママが飲んじゃうから。
パパは変だなあと、コップの底を下からのぞき込む。
すると、パパの目にビールがジャー!
ママがこぼれそうなほどなみなみとついであげたの」

「ユウレイって、酔っぱらうの?」
「もちろん。
とってもいい気持になるの。
ママは、昔好きだった音楽が聞きたくなって、
パパが見ているテレビがひとりでに消えて、
スイッチを入れたはずもないのに音楽が流れはじめるの。
酔っ払いのパパは、急にママを思い出して、
『ママ、ここにおいで!』って呼ぶの。
ホー助(大型犬オス2才)は自分が呼ばれたと勘違いして、
喜んでとんで来るの。
パパはママと間違って抱っこするから、
ホー助はもう嬉しくてパパの顔をペロペロペロペロ。
パパはもう喜んで、
『ママヤメテ!ヤメテ!』」

「犬やネコには?」
「ママがいるのがハッキリ見えるの。
ママと一晩中ボールなげて、家中走り回ってママと遊ぶの。
パパはあんまり騒々しくて眠れない。
朝目を真赤にして会社に
『行ってきます』だって」

「ユウレイって何時ねるの?」
「和歌ちゃんがねるとき。
和歌ちゃんといっしょにねんね」

「そう、じゃあ、ママが死んでも寂しくないね」
「そうよ」
「よかった」

HINTS!

子供の疑問には、精いっぱいゆとりと
ユーモアで答えてあげよう。
死はいずれ向こうから歩みよってくる。

共通テーマ: 「和歌と金魚」「人は死んでも生き返らない」

アッ!江崎和歌は女だった
年中もも組

遊びこんで日焼けした、引き締まった体。
冬でも短パン、ソデなしのTシャツ。

木から木へ、子ザルのように登ったり下りたり、
泥ダンゴ作りはドロドロの泥だらけ。
汚れるのも気にせず、夢中になって遊んでいた。

誰の目から見ても男の子。
そんな逞しい男の子がうらやましいと、
じっと眺めている男の子がたくさんいた。

女の子は、お人形さん遊びが大好き。
和歌は、リカちゃん人形で一人遊びをするような子ではなかった。

でも、女の子は女の子。
一度はリカちゃん人形を!と
買ってあげてはみたものの、
興味がなかったのだろう。

髪をみつあみ、1つにまとめ、おリボンをつけて遊ぶ。
遊び方がわからなかったのだろう。
ロングヘアのリカちゃんは、ブラシでグチャグチャ。
前髪をかき分けると、ブルーの瞳はあやしい光を放ち、
洋服は後前。
遊び相手にしては、少しも可愛くない、
ユウレイのリカちゃんだった。

キューピーさんを買ってあげた時。
ゲラゲラと。
何がそんなにおかしいんだろう?と覗くと、
首はくるりと半回転、背中に顔。
手には足、足には手をはめ、後向きにハイハイさせて、
兄軍太とゲラゲラ笑い転げて遊んでいた。

もも組さんの女の子達は、
お人形さんや、おままごとで、ごっこ遊び。
男の子と思ったのだろう。
遊びの仲間として、誘われることはなかった。

誘われようと誘われまいと、そんな事はどうでも良く、
仲間はずれにされても気づかず、いじわるしても感じない。
いじめる側にとっては、いじめがいのない、
マイペースの和歌だった。

年少あか組さんは、性別の意識はまだ薄く、
先生以外は、誰もが男の子だと思っていた。

江崎和歌はやっぱり男の子!
それを決定的にした事実。
男の子と並んで園庭の片隅で立ってオシッコだった。

2才違いの兄が師で友だった。
共に行動、見よう見まね、やることなすこと兄と一緒。
それに拍車をかけたのは、戸外での生活体験だった。

幼少期から四季折々、山、川、海へと。
長くのびた草陰、葉のおいしげった木陰。
岩陰に身を伏せれば、波の音。
岩陰は格好のトイレ。
広大な大地は、どこもかしこも、
自然が作ったトイレだらけ。
トイレ探しも1つの遊びだった。

人影らしきものは、タンボのカカシ。
とがめるものは、誰もなし。
2人してのびやかーに、用を足す。

こうした自然体験をしてきただけに、むしろ当然の成行きだった。
「女の子が男の子と並んで用を足す」
この現象は開園以来はじめて。

先生がたは、
注意してしまうのは、勿体ない場面。
一生に一回あるかない貴重な体験。
いつ、どこで、誰が気づくか?
子供の関係を楽しみに、見守っていきたいと思うと。

江崎和歌は、やっぱり男の子!
これを決定的にした、今一つの事実。
トカゲ、ガマ、イモリ、ヤモリも、へのカッパ。

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木造の園舎はヤモリが出没する。
炎天下、つまみあげては手の平にのせ、
ヤモリと鼻と鼻をつきあわせ、チュッ!チュックのチュッ!
「まあ、なんて可愛いヤモリちゃん」
なでてなでて、なで廻す。
小1時間もなでヤモリは、ぐったりと。
真夏はヤモリにとっては受難続きだった。

「まあ、なんて、可哀想なヤモリちゃん」
仲間に向かってポイッ!

さわれない仲間は、
「オイ!和歌、いたぞ、いたぞ!」
見つけるとすぐに知らせに!
ヤモリにとっては受難続き。

子供たちが苦手とするのは、見るからに不気味なガマ。
ヤモリの時は「いたぞ、いたぞ」だったが、
ガマの時は「オイ!和歌、でたぞ、でたぞ」だった。

和歌にとっては、ヤモリもガマも同じこと。
重量感のあるガマは、抱きしめがいがあり………
人なつっこそうな目。
なんとかわゆいガマちゃんでしょう-だった。

こうしたことから、
仲間から尊敬の念を抱かれた男の子?だった。

もも組さんのある日。
安全確保のために、トイレのドアの下にはスキ間があった。
いつも下から覗くいたずら好きの男の子。
和歌がトイレに入ると、覗き見に!
男の子だと思っていたからこそできたこと。

保護者会で先生は、苦笑。
その時の、A君のけげんな顔付きととその驚きようったら!
「ハアー? エーッ!」だった。

それからしばらくして、その子の口から口へ、
それをまた伝え聞く、男の子の口から口へと。
男の子たちの間にうわさ話として広まった。
実は、江崎和歌は女だった-と。

その日を境に、
タンスの中に花ガラのスカートを。
-がしかし、
ヤッパリ短パンとTシャツだった。

HINTS!

クツ下をはじめ、衣類の洗濯は
本人に任せよう

『和歌とプレゼント』

お誕生日プレゼント、クリスマスプレゼント
プレゼントは、子供の成長過程の1つの節目、節目の祝い事。
成長するにつれ、プレゼントの品は形を変え、
親もまた、子供の目の高さになって、
本当に欲しい物は何だろう?
喜ぶ顔見たさに、目の奥をのぞき込んで、遊びをじっと観察。

和歌2歳の誕生日プレゼント

動物好きの和歌。
動物のぬいぐるみならば、当たりハズレがなかった。

その日のプレゼントは、今までになく、大きな箱。
お誕生日とは何か?はまだ解からなかった。

でも、リボンのついた四角い大きな箱は、
自分のものだと、すぐに解かった。
ニッコリすると、箱のフタを下から持ちあげ、パッとはらいのけた。

でてきたのは、等身大のクマさん。

やっとの思いで抱きあげ、
パパに手伝ってもらって寝床まで。
クマさんと抱っこでネンネ。

誕生日のごちそうの満腹感も手伝って、
フワフワとした暖かいぬくもりは、ドッと深い眠りに。

大きなクマさんに、鼻を押し当て、
まるでママのオッパイに顔を埋めて寝ている赤ちゃん。
クマさんはまるで和歌のママだった。

和歌3才のクリスマスプレゼント
これまでぬいぐるみが多かった。
少し違ったものをと思い、おもちゃの国キィディーランド。

館内は、暖房が効き過ぎ。
プレゼントを探す親子で身動きできないほど。
目をひくめずらしいものばかり。
時間のたつのも忘れ、ふと気づくと、6時。

早く決めなくてはと、
暑さと疲労感、焦りで、ボーッとした時、
涼しげな彩りのランプに照らされ、
ゆっくりと廻りながら、童謡を奏でる
ガラス細工のクリスマスツリー。
それはオルゴールだった。

なんて素敵なんだろう。
ガラス細工の小さな可愛いオモチャがたくさん吊るしてあった。

-がしかし、これはオモチャではなく、
アクセサリーであるということに、気づかなかった。

家に戻ると、待ちくたびれたのか、
「オカエリナサイ!」と無愛想。

プレゼントの箱を見ると、
遅くなった理由が解かりかけたとばかりに、ニッコリ。
さっそくヒモ解き、箱から出して、床の上に。

予想とは違ったのだろう。
ガラス細工を凝視する冷たい表情は、
ガラス細工の雪の女王そのもの。

あわてた私は、ごちそうやケーキで穴埋めしようと、台所へ。
「さあ、もう、お食事にしましょうね」
と言いかけ、ドアを開け驚いた。

まるで地震にあったように崩れ去り、
唯のガラスの粒の山。
落としたか?たたいたか?
それとも、持ちあげ、あやまって落としたか?

そんな事は、もうどうでも良いことだった。
それよりも、崩れ去ったツリーを前に、
ペッタリと座り込んでいる、
和歌の気持をどうするか?
そのほうが先決だった。

どんなにプレゼントを楽しみにしていたか?
その思いだけがひしひしと胸に伝わってきた。

もし、わざとしたならば、
いけないと知っていてやった和歌こそ、
どんなにか胸の痛む思いだろう、

あえて何一つ聞くことはしなかった。

子供によく自分勝手とはいってきたが、
自分勝手は、私のほうだった。

ガラス細工のクリスマスツリーは、大人のエゴ、虚構の城。

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一瞬にして、崩れ去ったガラス細工は、
傷つきやすい、幼心そのもの、

して良いこと、悪いこと。
理屈では解かってはいるものの、理論と行動が伴わない、
まだ動物の面影を残した、衝動的な行動でもあり、
たとえ親でも、手加減しない。
素直に、正直に、自由に自分を表現できた。
まさに、反抗期、3才児。

人の子として、
順調に育った証拠ではないかと思える出来事だった。
起こした行動は大人へ短い言葉、サインだった。

この出来事を、4才のクリスマスプレゼントにどう活かすか?
これが、私の1年間の長い長い課題だった。

和歌もも組さんのクリスマス

幼稚園年中もも組さんは、
幼稚園でもお家でも
2つのクリスマス会を祝うことができた。

これまで、家では家族だけのクリスマス。
はじめて、幼稚園のお友達を呼び、
お家でクリスマス会

飾りつけは、家にあるもの利用した。

今までと違うのはテーブルの上の料理。
自分たちで作る。
大人はお客さま。
一人一人が小さなコックさん。

手巻ずし、ホットケーキ、たこ焼き、ヤキソバ……。
縁日の屋台のようだった。

一番最後はプレゼント交換。
自分で心をこめて作った手作りのプレゼントを交換。
最後は、
その日のために一年間待ちに待った
私の一大イベント。

去年のクリスマスプレゼントのやり直し

「今日は皆さん、どうもありがとう。
ハイ!
これから、和歌だけでなくみなさんに、
私から素敵なプレゼント!」

テーブルの上には、心なしか、時折ゆれる
おリボンのついた四角い箱。

子供たちの目は、いっせいに箱に集中。
カンの良い和歌は、ニコッ
急いで一気に箱のヒモをほどき、フタをとった。

出てきたのは、
身を縮めて
いち早く箱のフタを開けてもらうのを待っていた、
赤いリボンをつけた、
手のひらサイズの黒い子ネコちゃん。

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「なんて可愛いの」
急いで抱きあげ、
「お母さんどうもありがとう」―と。

こんなに喜んだ顔は一度も見たことがなかった。

子供たちは、次々に抱かせて、抱かせてと。
その日の子供たちのキラキラした瞳は、
クリスマスのどんなシャンデリアよりも、輝いて見えた。

3才、反抗期最盛期。
とかく反語でしか表現しない和歌から出て来た、素直な一言。

「お母さんどうもありがとう」は、
私の胸にきざまれ、一生忘れることはないだろう。

あの日の雪の女王は、今、目の前で溶け去った。
許された私がいた。

このことは、反抗期、思春期、
嵐のような時期を迎えるであろう私を
きっと支えてくれ、乗り越えさせてくれるであろう。

「お母さんどうもありがとう」は、
このことを確信できる一言だった。

プレゼントは本物にまさるものはない。

いつの日か、ボーイフレンドができるであろう。
きっと、どんなダイヤモンドよりも、
「I LOVE YOU」の一言と、
本物の1匹のトカゲのほうが
よほど喜ぶかもしれませんことを-
王子さま方にお伝えしたい。