<小学校生活>

<小学校生活>
東京の学校
転校、また転校

3年の新学期、4月
「江崎和歌が戻ってくる」と
クラスは沸き立った

山の子供に鍛え上げられた
精神力と自然体験

ひと回り太くなって戻ってきた
山の木の幹は

都会のアスファルトの校庭に
土中深く根を張った

クラスの仲間へのおみやげは
和歌の存在感そのものだった

山から戻ってすぐ
国語の時間に
こんな詩を書いた

「こんなケシゴムがあったらいいなぁ」

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ビルを消して、山にする
町を消して、公園にする
山から木や花を取ってきて、植える
電柱を消して、木にする
灰色を消して、緑にする
ついでに、いやな奴も消す

もし、音のしないピストルがあったら・・・
と続く詩に、先生は
日頃、無口・おとなしい、は
まさに音無しのピストルで
生来の気性の激しさを感じ、
ドキッとしたという

「この詩を読んで、山でのいじめは
思いのほか過酷だったということが分かりました」と

この詩は、職員室では噂となった

こうした子がいったん怒ると手がつけられない
宅急便の壊れ物同様
取り扱いには要注意だった

それにしても、発想法のユニークさもさることながら
詩のうまさは大人顔負け

どうしてこういう詩を思いつくのかと
不思議がられた女の子だった

この詩は、これから自分たちが住む地球について
人も、動物も、自然も、
どうしたら住みやすい環境にすることができるか?
子供にも希望する権利があるという
都市計画そのものだった

行政サイドに立つ大人・政治家に
目を通す、申しおくるだけでなく、実行・実現させ、
未来を頼む子供から信頼される大人であってもらいたい、
そんな大人へのメッセージではなかろうか?

HINTS!

無口な子が、詩や作文でベラベラしゃべる
おしゃべりだったりする

あるアンケートより

3学年のクラス担任は
自由奔放な和歌にピッタリ

モットーは1人ひとりの個性を尊重
目標は明るく楽しくいじめのないクラス

教育熱心な先生は
子供自ら考えさせようと
アンケートを作成

自分が今、やりたいことを
思い切りやる!
人をいじめる暇はない

・今、あなたが思い切りしてみたいことは?

この質問に
「思い切り人をいじめてみたい」と
クラスでたった1人
本末転倒の回答
それが和歌だった

一度してみたいことは
してみたことがないことだった

・いじめについてどう思うか?

これについても、ほとんどの生徒は
良い悪いで答えたが
「いつか役に立つこともある」
この回答も和歌だけだった
和歌の転校は
「いじめは役に立つこと」と
発想の転換となった

先生は一言
「これが本当の体験学習です」

子供の心はどこまでも澄みわたり
空はひとつどこまでもつながっていた

東京の教室から山の教室へ
ありがとう!

山の子供たちは教室にはいなかったが
山と東京、実りある合同授業の場となった

HINTS!

いじめ? ワンモアチャンス
思いがけないプラス1がきっとある
負けてしまえばノーモアチャンス

授業参観 パート I

授業参観は
知ってる子供の発表会
いつの間にやら親が主催者に

算数の時間
自信のある子は我先に
いきおい「ハイ!」と
手を上げる

算数は苦手な和歌
解らなくても手を上げよう
参加することに意義がある

自信がなかったのだろう
ゆっくりと上げた手は半円弧を描き
盆踊りの佐渡おけさ

「ハイ!江崎さん」に
くねるように立ち上がると
月も出なけりゃ答えも出ず
「解りません」が答えだった

参加者はもとより
クラス一同、爆笑の渦

「何がそんなにおかしいの?」
受け狙いはナシ、思いがけずお笑いのネタ提供
緊張感の欠如した和歌だった

授業参観 パート II

対応上手、引き出し上手の先生は
「いじめられるのはイヤだよねぇ、カッコ悪いよねぇ」
「経験のある人は? 誰か話してくれないかな?」

この問いかけに、和歌は
待ってましたとばかりに
率先して手を上げた

それを見て先生は思わずニッコリ
「ハイ!江崎さん」だった

和歌は山でのいじめの経験を切々と語り始めた

「『こんなにきれいな青い空の下でも
人をいじめるかわいそうな子が・・・』
と、お母さんが・・」
ここまで話して声を詰まらせた

先生は涙、授業参観に来ている親も涙
それを見てもらい泣きする女の子もいた

教室は舞台となって
和歌は悲劇のヒロインに
シンデレラもかなわない

クラスの子供たちにとって
この日の和歌は
“なんてかわいそうな、かわいそうな和歌ちゃん”

泣いていないのは当事者の和歌だけ
辺りを見回し、何か気恥かしげ
「えっ、もしかして私ってかわいそうな子?」

かわいそうどころか
幸せいっぱいのヒロイン

思いがけず同情票をかき集め
この日をきっかけに
お誕生日、クリスマス、etc・・・
プレゼントがどんどん増え出し
まるで貢ぎものの山

そのほとんどが男の子からだった

「オイ、和歌!和歌!」と
ご機嫌取りまで始まった

月に昇天しそうなかぐや姫
昇天も昇天、有頂天

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が、しかし、男の子たちは
よりお気に入りの品を、と競い始め
プレゼントごっこは日に日にエスカレート

子供同士のプレゼントのやり取りと
おこづかいの使い道

次の保護者会のテーマを提供する結果となった

銀ヤンマピアノ教室
初めてピアノを習う

お友達がピアノを習い始めると
私も習いたい!となった

習いたい、「アラ!ソー」
止めたい、「アラ!ソー」
の主義だった

お友達と一緒がいい!と
遠かったが早速見学に

「はじめまして、お和歌ちゃま」
現れたのは、銀ラメセーターに
鎖つきの大きな銀ブチメガネの
おばちゃま先生

「お宅のお和歌ちゃまのおレッスンはお毎週お2回、
お毎日お2時間、お家でおレッスン、でないと困るザマス」

上から下まで品定め
「宅は年お2回お発表会があるんザマス
おドレスでなければイケナイザマス!」

「おレッスンは、おズボンはダメ!
おスカートでなければイケナイザマス
おピアノを弾く前は、お手々を洗って!」

色々に規制がうるさく
ダメダメオンパレード

自由奔放な和歌、どうも場違いな教室へ来たようだ

バカ丁寧な、耳なれない言葉、
これでは英語教室!

帰り道、トンボのメガネは銀色メガネ、と歌いながら
「お和歌ちゃまだって!あの先生、銀ヤンマみたい」
なるほど、そっくりだった

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ピアノを習うこと自体には
あれほど乗り気だったのに
「お休みしたい」と

「アラ!ソー」だった

厳しいおレッスン、生徒のわきに仁王立ち
その迫力に、音符はかすんで、弾く手は止まる
すると即座にその手をピシャン!

ひとたび怒ると鬼ヤンマ
泣き出す子も、止めてしまう子も多かった

ところが和歌は
時々休み、ロクロク練習もせずに
「ピアノに行ってきまーす」と平気だった

和歌が良ければそれで良い
いずれ本人が決めること

ピアノの発表会もせまり
お月謝は前払い
その手前
銀ヤンマは練習不足にキリキリ

ある日電話が入った
「お宅のご家庭のお教育方針は?」

「食べて、寝て、遊ぶことです」
「ンマッ!それじゃあ、動物ザマス」

「お宅のお和歌ちゃまは、イケナイ子ザマス
お手手でなく、おアンヨを洗うんザマス
おピアノの発表会のおレッスンは
何もしてないザマス!

怒ったら、私を蹴るように
おアンヨでペダルを蹴ってにらむんザマス!

発表会のおアルバムを見せ
おドレスを!と言ったら
『へえ~、こんなの着るんだ、私イヤ!』
おアルバムをパタリと閉じ
私お家に帰る!って帰ってしまったんザマス

お宅のお和歌ちゃまはワガママザマス
しつけがなってないザマス
きつくしかってやってください」

おピアノの発表会当日

会場○○○スタジオ
○○○子教室 ジュニアピアノコンサート

この日の晴れ舞台のために
趣向を凝らした衣装
ピアノの発表会というよりも
ドレスの発表会

本末転倒、誰が何のためにする発表会?
「ドレスはイヤ!」
和歌の気持ちが解りかけた
和歌はシンプルなデザインの白いドレス
ドレスは白いがちょっと太めの黒雪姫

白雪姫の姫ならば
柩の中で死んだふり

ロクロク暗譜もしないで
寝たまんまマンガを読んでたお姫様

さて、いよいよ和歌の出番!
一体どうする気だろう?
ドタン場に強い和歌のこと
きっと何とかくぐり抜けるだろう

白いおドレスのお姫様は
スソを引きずり堂々の登場

舞台の中央でスソをつまんで持ち上げると
丁寧すぎるほどに深々とおじぎ
この自信とゆとりは一体どこから?

一方、銀ヤンマは不安でいっぱい
楽屋裏を行ったり来たり

和歌は落ち着き払ってピアノに向かうと
さあ、始めます。とばかり、
会場に向けてニッコリ会釈
両手を鍵盤の上に置くと
力強くリズミカルに弾きだした

なんと、弾けるところだけどんどん弾いて
弾けないところはどんどん飛ばし
聞く者にとっては
まるで超特急の窓から見る景色
何が何だか解らないうちに終わった

まるで、でたらめ
銀ヤンマはア然、しばしボー然

上手に飛ばして続けざまに弾いたので
そんなものだと気づかない人も多かった

拍手

最後に先生と並んで深々とおじぎ
その最中、会場の私に気づき
ペロッと舌を出し、ニタッ!

会場の誰からも見えたこの仕草
知らぬは先生ばかり
「なんてかわいいの!」と
場内は笑い声でざわめいた

さらに過酷な運命共同体
レッスン仲間はこの時とばかりに
「和歌ちゃーん!」だった

ふってわいたこのハプニング
銀ヤンマは訳が分からず
晴れ舞台はお和歌ちゃまのおかげで泥だらけ

赤面のいたり
秋の夕日に染まった
羽がボロボロ、宙をクルクル廻る赤トンボ
とまどいうろたえヨロヨロと
挨拶も早々にステージから楽屋へと
ガクガクしながら引き上げた

運動会のハードル競争を思い出す

ハードルを前に
跳び越すと思いきや
サッとくぐり抜け、ゴールイン!
またぐも方法、くぐるも方法

ピアノの発表会もまたしかり
人生の数々のハードルを
きっと上手にくぐり抜けて行ってくれるであろうことを
予感できるできごとだった

ヒヤシンスピアノ教室

銀ヤンマピアノ教室は、二月足らずで
「あんな先生、もうヤーメタ!」だった

今度はクッキーが食べられる
おいしいピアノ教室があると聞き
「また習いたい」

「アラ!ソー」だった

猛暑つづきの7月、夏の真っ盛り、うわさの教室へ

古びた木造の建物、門には十字架、玄関にはイエス様
草ぼうぼう、至るところにガマ蛙が出没、
捨て猫がみんなでお出迎え

和歌にピッタリ!

若く、色白、長身
細身の水色のワンピースをまとい
花ならヒヤシンス、それも水中花のヒヤシンス
いかにも涼しげ、優しげ

「はじめまして、少し待っててね!」と奥へ
和歌は「きっとお菓子を取りに・・・」とヒソヒソ

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透明なグラス、透き通った氷
冷茶やクッキー、涼しさを盆にのせ
ヒヤシンスは行ったり来たり
ひんやりした風が行ったり来たり
声楽をご専門とされ
この世のものとは思えないほど
透き通ったきれいな声

「さあ、召し上がれ」の一言は
風に揺れる風鈴の音

和歌は思わずすいこまれ
1つ取って口に入れようと
とその時

「まだイケマセン!」
ハッと手を引く和歌の手に優しく手を添え
「お祈りしてからです」と

銀ヤンマなら、ここぞとばかりに
手をピシャン!

色んな先生がいるもんだなあ~

見よう見まねで手を合わせ
目を閉じはしたものの
うっすら目を開け、先生の顔とクッキーを
かわりばんこに見ては
長い長いお祈りが
早く終わりますように、アーメン、だった

ごちそうさまは神様に
またおいしいクッキーを!アーメン、だった

1回目は食べてお祈りして終わった

ヒヤシンス先生はクリスチャン
方針はたったひとつ
ピアノが嫌いにならないこと

叱ることも怒ることもなく
初めて叱ったとき?
それもたった一度だけ?

自責の念にかられた先生は
寝る前に懺悔

「ああ、神よ!こんなにかわいい姉妹に
弱い私をお許しくださいますよう!アーメン」

もし仮に銀ヤンマがクリスチャンならば
寛大な神は、罪深き弱者に、幾度も幾度も免罪符を
許されるだから、また叱る、の繰り返し

ピアノが嫌いになって
先生が嫌いになって
無理強いすれば親まで嫌いになって
モーヤメタ!

家でのレッスン
「どうやって弾くの?」と尋ねられれば
もう喜んで、教えてあげるとばかりに弾きだした

「きれいねぇ、上手ねぇ」などと言おうものなら
もう嬉しくなって
さらに「疲れが取れて元気になるわ!」とで言えば
お母さんのためならばお安いごようだ!とばかりに
いつまでもいつまでも弾き続け
ついにお父さんの堪忍袋の緒が切れた

「うるさい、もうヤメロ!」に
和歌もまた
「うるさい、ダマレ!」

上手いとか下手ではなく
和歌のやる気こそ
私の明日の活力を約束してくれた

そればかりか
いじめがあった時
腹立ち紛れで相手を責め立てれば

「どうして人を許すことができない?」
頭が下がる思い

宗教心も芽生え
ピアノが好きになって
先生が好きになって
お友達が好きになって
おまけに、お母さんが大好きになって
お父さんが少し嫌いになった

習い始めて一年目
またまた7月、夏の真っ盛り
ヒヤシンスピアノ教室
初めての発表会
色黒、ボーイッシュ、Tシャツ、短パンの普段着

水を得た和歌は
水中花のヒヤシンス

先生が手塩にかけて育てはじめて丸1年

力強く、リズミカルに弾きだして
舞台の上で小さな花をパッと咲かせた

HINTS!

ヤレ!と命令されればイヤになる
お願いしてみてはどうでしょう