<バンタン芸術学院>

<バンタン芸術学院>
バンタン芸術学院 ―学校見学―

母と学校見学
体とハートが先歩き
音は後からついてくる

好きになることから
何かが生まれ
何かが始まる

校舎には
音と恋が転がって
休み時間は
女子生徒は
廊下に寝転がって
通せんぼ

ウホ、ウホ、ウホ

お若い講師は
よけてまたいで
通るがやっと

茶髪に金髪
生徒たちは色とりどりのニワトリ
鳥小屋さながら

止まり木にとまって
昼寝を楽しむグループ

砂をけってじゃれあうグループ

陽だまりで
ひとかたまりになって
グループ練習

初対面にもかかわらず
人なつっこそうに
あちらこちらから
首を投げかけ
コンニチハ!コンニチハ!

それもそのはず、
本校の方針は“人間教育”
「まずあいさつです」

一言で表現するなら
いろんな楽器が置いてある
広いスペースに
色とりどりのニワトリを
放し飼い

自由、奔放、いたってのどかでくったくない

母は何かうれしげに
あたりをキョロ、キョロ
「まあ、ステキな先生がいっぱい、
ここにしましょうネ!」

和歌もまた、
「私やっぱりここにした!」

あだ名が天然ボケ
素朴さといい、いたって自然体
和歌にピッタリ

黒髪ではあったが
早くもこの景色に溶け込んだ

生徒がオタマジャクシなら
さしずめ教師は
殿様ガエル

白いオタマジャクシに
黒いオタマジャクシ

さあ、オタマジャクシ達よ!
校舎の隅から隅まで
泳ぎまくれ

やがて足が出、手が出、シッポがとれ
オーディション
数々のハードルを跳び越え

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ホップ、ステップ、ジャンプ
カエルになれる奴もいれば

ホップ、ステップ、ドボン
カエルになれない奴もいる

人生何が幸か不幸か解らない
歌に上手い下手があっても
人生に上手い下手はない

和歌2才の頃
オタマジャクシを
素手でつかまえ遊んでいた

音を捉える
天性の感性と優しさが
そなわっていたのだろうか?

不思議なことに
潰れてはいなかった

なぜたろう・・・どうしてだろう・・・
素朴な疑問を抱きつづけて拾余年

私が探し求めていた
懐かしい景色が
まさかこんな所にあろうとは

今答えが出た

都会のど真ん中
渋谷の繁華街
高層ビルの谷間に
音を夢みる
オタマジャクシ達の棲む
清流があった

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生徒達の個もまた、
何一つとして
潰されてはいなかった

幼少期から
自然の中で培った感性が
力強く、個として
引き出されるであろうことを
実感できる
学校見学だった

カエル交響楽団

幼少期から
自然の中で獲得した
山ほどの忘れられない音がある

忘れもしない
母とキャンプした
あの晩のことを思い出す

うるさくて、眠れないほど
地の底からボウボウとひびき渡る
何とも不気味な音

「あれは何の音?」と尋ねると
「何でしょうねぇ~」
待ってましたとばかりに
「さっそく見に行こう」と

懐中電灯を手に
音のする方へ方へと
山道をどんどん下って
辿りついた所が沼だった

照らし出されたのは
ゆっくりと動く
いろんな絵の具をごちゃまぜにした固まり

目をこらせば
沼一面、ビッシリと敷きつめたカエル
カエルの上にカエル
積み重なったカエルのレンガ

重みで押しつぶされ
グェッ!、ゲェーッ!、グェッ!

何とも不気味

母は目を細め
「何てきれいで可愛いいんでしょう・・・」
懐中電灯に照らし出され、
浮き上った母の顔は
息つぎに顔を出し、
目を細めたガマにそっくりだった

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テントに戻ると
いつものように
さっそく動植物図鑑を取り出し
開いた所は
世界中のめずらしいカエルだった

母は話しはじめた
「生き物には、
必ず1つづつ楽器があるの。
動物にも、植物にも、昆虫にも。」

私が初めて知った
植物の楽器は
タンポポ笛と笹笛だった

母は楽器作りの名人
名演奏者だった

いつもの母の言葉遊びが始まった

犬はワンワン
猫はニャンニャン
鳩はポッポ

ふくろうはホーホー
うぐいすはホーホケキョ

すずむしはリンリン
かねたたきはチンチン
せみはミーンミーン

ところがね
いろんな音色の楽器を持っているのは
カエルだけなの

のどの下の風船を思いっきり
ふくらませて音を出すの

リズミカルないろんな音色が
いつしか
ファンタジックな世界へと
眠りを誘った

いろんなカエルが
手に手に楽器を持って
スタンバイ

殿様ガエルの指揮する
カエルシンフォニー

曲 目
♪ 田園
♪ 空がこんなに青いとは
♪ 谷間にカエルは鳴り響く
♪ カエル行進曲
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何でも弾くのが好きなヒキガエル
フルートを吹くのが得意なクチボソガエル
ツメをなめなめギターをかきならすツメガエル

ボーボーとホルンを吹き鳴らすウシガエル
タンバリンを叩きながら踊りまくるスズガエル
ドラムを叩き回るダルマガエル

アカガエルの大太鼓
アオガエルの小太鼓
ひっくり返しに叩くアベコベガエル

懐かしげに三味線や琴をつまびくムカシガエル

ゆったりと水かきを広げ
しなやかな指を伸ばし
ハープを奏でるユビナガカガエル

入場券は金色の葉っぱ
楽屋裏で嬉しげに
指をなめなめ、一枚、二枚・・・と
数えるのはコガネガエル

ピアノの伴奏に合わせ
吸盤を押しつけ
楽譜をめくるイボガエル

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選ばれしオクターブ7匹のアマガエル
今宵は踊り明かそう
鍵盤の隅から隅までジャンプ
忙しそうに自由奔放に跳び回る

夜も更けると
どこからともなくユウレイガエルが現れ
終わりのあいさつ

突然、シンバルがジャーン!

すると
ひとりでにステージの灯りが消え
楽器も消え
客も消え
椅子も消え
音も消え

何もかもが元通り

金色の葉っぱは
ただの木の葉っぱ

コガネガエルは
しばし呆然
カンガエル

ジャジャジャーン!

ショックのあまり
ヒックリカエル

聴こえてくるのは
川のせせらぎばかり

耳を澄ませば
あの懐かしい母の子守唄が聴こえてくる

シンガーソングライター和歌の誕生

はじめオタマジャクシ、
そしてタマゴだった頃
母のせせらぎを子守唄に
泳いでいた

やがてシッポがとれ、丸くなって
心臓ができはじめ
血液が循環しはじめると

母の心臓の鼓動
メトロノームに合わせ
母と私のデュエット
二重奏がはじまった

毎日毎日が楽しくて
いつまでもいつまでも
ずっとずっとこのままでいたかった― それなのに

「ある日突然、金属音がなりひびき
まばゆいばかりの光を浴び
はじめてのステージ
人生という舞台に立って
これまでにためこんだ音を一気に吐き出した!」

オギャー
これがライブのことはじめ

オタマジャクシとカエルは
親子ではあるが
姿・形も違いまるで別

オタマジャクシにも
はじめがあれば終りもある
出会いがあれば別れもある

オタマジャクシにも
音があって
意志があった

あの胎動を呼び起こす
いのちのリズム

あの日の鼓動を
今一度呼びもどそう
とりもどそう

和歌生まれてきたことの理由(わけ)

音楽受験

赤点で鍛え上げた
根性がたたき台
これが本当の0(ゼロ)からのスタート

欠点も弱点も個性のうち
力不足は気力で補おう

1回目がダメなら2回目
2回目がダメなら3回目
3回目がダメなら4回目
4回目がダメなら5回目
熱心な子だと
そのうち何とかなるだろう

7月も真夏の真っ盛り
オーディション
第1回目トライ

全国各地から集った
バケツいっぱいの
オタマジャクシ達

和歌は居並ぶ審査員を前に
泥沼のオタマジャクシ
「誰か、私を発見して下さい!」

水泳の試合の度に
鍛え上げた度胸
筋トレは心トレ

あがることもなく
居並ぶ審査員は
田んぼのカカシか
カラスの行列

あの日のあまたのカエルが応援団
和歌ガンバレよ!

「思いっきり喉の風船をふくらませ
大声で歌うんだ!」

何事もインパクト
「やるなら、ヨシ!今だ!」

ふくらんで、ふくらんで
ハレツ寸前
審査員一同、腰をあげかけ
驚きの余り目が点

“こんな生物見たことない!”
何とも人間ばなれした声と仕草
こんな女の子見たことないし、いたためしがない

本校の方針は
生徒一人一人の個を尊重
ところが
生徒一匹の個もまた
尊重せざるを得なくなった

思いっきり大声を張りあげ歌った
その甲斐あって合格

しかもAランク、ヤッター

母に「Aランク合格したよ!」と
報告すれば
「CDじゃなくて残念ね」
何一つ解ってはない

ルーズソックス脱いでスニーカー
新しい仲間のクツ音が
リズミカルにやってくる

入学式

桜吹くキャンパスは
いろんな声を持った
全国各地から集まった
カエル志願者でいっぱい

春のステージは
真夏の田んぼ
何ともにぎわしい

カイル、ゲェール、ギェール、ゲェーロ
ギィル、ギャーロ、ギェロ、ギィル、ギャール

ギャル、ギャル、コギャル
圧倒的に女子生徒が多く
男子生徒はわずか

在校生のライブでスタート
つづいて、ダンス、キップも要らず何か得した気分
ライブ会場でもあり、劇場
こんな入学式はじめてだった

―新入生に向ける言葉―

・まずあいさつ!休まないで!遅刻しないで!
・神様が見ている  1%才能、99%努力
・眠っている何かを引き出す
・真の教育とは、個を引き出す
私達は、そうしたお手伝いをしたいのです
・芸術教育かつ、人間教育

希望に燃えた生徒達に
次々にたたみかけ
根底からゆすぶりをかけた
学ぶことへの期待と欲求を満たした入学式
しんと静まり返った会場が物語る

早くも競争意識が芽生えたのか
あたりにチラッ!と走らせる
殺気立った視線

幾つもの登校日、初日の表情があったが

獲物をねらって
ギターの弦ならず
弓矢を射る瞬間

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よし!ヤルゾ―だった

バンタン合格祝い

シンガーソングライターをめざし
走る姿はダービー馬

草原で足を止め
見渡しながら
草をはむ

人生に無駄があって良い
回り道があって良い
道草をたっぷりと食べ
あなたの歩調で歩きなさい

鍛え上げた馬脚
晴れの舞台は
馬の足でもいける!

祝2001.4.10母 きくえ

 

キャンパス風景

これまでとは
うって変わった学習スタイル

100%現役、現今(いま)を生きる
師は生徒の個を尊重

授業中は
“ねるな!しゃべるな!歩くな!”
それさえしなければ
ノートなんかどうでもいい

自分のやりたいことを
思いっきりヤレ!

歌を歌いたい子は
朝から晩まで歌、歌、歌

ギターを弾きたい子は
朝から晩までギター、ギター、ギター

好き放題
楽器や機材を使いこなし

音に群がるオタマジャクシ達の
エネルギーの殿堂
発散の場

和歌は
講師や仲間の合間をぬって
自由奔放・縦横無尽に音を追いかけ
キャンパス中をかけめぐる

キャンパスは私のためにあった―が

家でのギター練習

母は世界中の
どんな男性よりも
音楽とネコが好き

父は世界中の
どんな女性よりも
酒とバイクが好き
何よりも嫌いなのが音楽だった

ピアノにはじまって
木琴、オカリナ、ハーモニカ
犬やネコのはてまで
音が出るものは全てダメ

ダメ ダメ オンパレード

酔えば
「うるさい!寝ろ!」
とどなり散らし

この平和な時代に
空襲警戒警報発令
8時もまわると
“全員消灯!”

ハードルがあるほどに奮起
反対してくれて ありがとう
はんたいされることは起爆剤だった

今度の事件はギターだった

他人ならいざ知らず
実の父親

ある晩、酔った揚句
いきなり、ドアを足で蹴り上げ
「うるさい!静かにしろ!」と

和歌もまた、
「うるさい!だまれ!」と

音楽専攻の和歌にとって
7:00は生活の音

希望に胸膨らませた
18才の乙女に
“音め!うるさい!”だった

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まだクチバシの黄色いヒヨコちゃん
ヒナを守るためには
母はどこまでも
戦いに臨むメン鳥

「ウルサイ!だまれ!」と
大きくはばたき、威嚇した

鳥ならそこで終わるが、人だった

音楽とは、音を楽しむ
音を取ったら何が残る?

表現の自由
基本的人権を奪ってはならない

「この非国民!」にはじまって
矢継ぎ早にまくし立てはじめ

歌えば音痴の感情音痴!
漢字を書けば誤字脱字

音符も読めずに
我が子の心も読めず

レースできたえあげた体は筋肉
心も筋肉
脳ミソも筋肉!

作曲も出来ずに
楽器も弾けず
ひくとしたら自分のフトンくらい

何がレーサーだ!
飲んだら乗るな!
酔ったらしゃべるな!」

「和歌、ジャンジャンお弾き!」

このやりとりに悲しくなったんだろう
「最悪だ、最低だ
人がいっしょうけんめいやろうとしているのに!」
と大声で泣き出した

父「犬はなく、ネコはなく、和歌は泣く!
我家はなんとうるさい家だろう」

和歌の感情処理をめぐって
いきさつの全てを
バンタンスタッフに宛て、お手紙

音楽を志す仲間同士として
丸ごと心を
受け止めて下さったのだろう

素手でつまびく
ギターの音は耳を澄ますほどに

私の傍らを
平行して、たんたんと流れる
和歌の心の歌に
目を閉じ、身を寄せ
眠りに就いた

“子守歌”
いつしか時の流れは
母とこの立場を逆転させた

音を愛する集団は
澁谷の雑踏
生徒の心
どんな音をも優しく包み込む

都心の中央
渋谷の上空に向かって
ありがとうございます―と
手を合わせて祈りたくなった

生徒に携わる師のお人柄こそ
短期間ではあるが
密度の濃い凝縮した2年間を
学びの場として
体験できるであろうことを
早くも実感できる場面だった

悲しみは
アーティストにとって心の栄養
芸術家は薄っすら
不幸でなくては
良い作品は生まれない

今日この日まで
よくぞ、こんな家で育ってくれた
和歌よ!ありがとうだった

ステージパパ

シャイな父親は
けなすことで朝がはじまり
けなすことで夜が終わる

ようやく耳も慣れ
上達しはじめた頃

親バカチャンリン
ステージパパは
和歌に紐を付け
左ウチワを夢に見た

音楽の道は
厳しく険しく果てしなく

日々レッスンレッスン

これで良いということはない
芸術家を前にして

ビールを飲んで
ろれつも廻らず
ウツロな目は真っ赤

何をかいわんや!
父 「それにしても、うまい!」
和歌はなんていい声だろう。」
和歌「エッ!何ていった?
酔っぱらいにほめられても
うれしくも何ともない
もう一度いってごらんよ!」
父 「ああ、何度でも言ってやろう
なん酎梅え~、歌やんか。」
和歌「ウザイ!
このチョードンカン!」

突如ふってわいた罵声
焦りに焦って言葉を探した揚句
父 「いやな声だ、いや変な声だ」
和歌「次から次へと何と失礼な!」
父 「いや変わった声だ」
和歌「何、生まれつきだけのことさ!」と

ようやく納得
怒りが静まりかけたに見えたが
ここで終わらなかった

寝た子を起こす
火に油を注ぐとは
真にこのこと

父 「どうせなら、メジャーにならなくちゃ!」

絶句状態の和歌は
怒りで仁王立ち
目はつり上がり三角眼

それにも気付かず
大風呂敷をあけっぴろげに
大言壮語!

父 「CDを出すなら
200万や300万なら
パパが出してやる」

和歌「そんなお金が
あってから言いなよ!」

発生訓練の甲斐あって
スポーツで鍛え上げた身体は楽器
身体の中に
デッカイシンバルが一台

怒りでふるえ
家中にビリビリと響き渡った
「このチョードンカン!

酔っぱらいの
重ね重ねの何気ない一言が
芸術家のゲキリンに触れ

芸術は大爆発だった

「パパのどこがチョードンカンなの?」と
いたく胸にチョービンカンに響いた
チョードンカンだった

一夜でメジャーデビューを夢に見て
ステージパパが
夜空に放った
でっかい打ち上げ花火

チョードカーン」は「チョードンカン!

酔っぱらいの頭上めがけ
火の粉がバラバラと
降ってきた

バンタン通知表

期末終了ごとに
親宛に一通の封書
成績評価と
出欠状況・一言コメント

成績はAが多く
無遅刻無欠席

講師の一言評価
ヤルコトハヤル!
負けん気の強い根性のある生徒です と

それを物語るエピソードの数々

何事もインパクト
コメントその1

生徒の名前も顔もわからない
入学式を終えたばかりのこと

廊下でいきなり呼び止め
すれ違いざまに
「江崎和歌、幸せの青い鳥です。
聞いて下さい。!」
突然デモテープを突きつけ手渡した

その積極性と迫力たるや
「これを聞け!私の名前と顔を覚えておけ!」
と言わんばかり

驚いたの何のって
ジャングルで
突然ゴリラに出会ったかのよう!
思わずのけぞった

さぞかし驚かれたのでは?
親として察するに余りある

“幸せの青い鳥”テープの評価
音楽的には幾分未熟ではあるが
独特な世界観があり
何か可能性を感じさせてくれました
と嬉しいコメント

入学したばかりの
クチバシの黄色いヒヨコちゃん

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幸せな青い鳥は
「不幸な青い鳥」に終わることなく
1枚のCDをくわえた
幸せを運ぶこうのとり

バンタン校舎上空を
大きく旋回
そして卒業

その日を願って
教師をはじめ
昼夜を徹して一致団結
飛行訓練

試行錯誤の全力投球
真に身を削る実践教育だった

その2 夏休みの課題

冗談まじりで
「夏休みの課題は、生徒全員50曲」

エッ! まさか!
30曲あまり提出
まるで挑戦状! か 果たし状!

飛蚊症さながら
オタマジャクシは自由奔放に飛び回り
誤字脱字も作品のうち
音楽が専科のはずが
国語も兼務せざるを得なくなった

どうかお目通し下さいは
まさに針で目を通す作業
まさか夜を徹して目を通すはめになろうとは

立場が逆転
生徒の課題は教師の課題

教育熱心な教師は
生徒1人の個を尊重
あまりに膨大な個の量に
収拾がつかなくなってしまった

もうありがた過ぎて冗談が
冗談どころじゃなくなった

このことはもっぱら職員室でウワサ
冗談は程々に
先ずは生徒を見てからにしないと

一晩で30曲以上作る早ワザ!といい
作詞作曲の独自の世界観!

「あの発想法は
いったいどこから来るのだろう?」と
不思議がられ
きっと
「宇宙から?
宇宙人は実在!
しかも本校に―」

「我々地球の一般人には
とうてい理解しがたい発想」だと
終始謙遜かつ感心されっぱなし
これまた職員室の話の種(ネタ)となった

しかも、休まないで、遅刻しないで
バンタンの看板を背にしょって
無遅刻・無欠席

雨にも負けず
風にも負けず
貧乏にも負けず
新宿・自宅から澁谷まで
徒歩通学をやり通す

そんな生徒の手前
「師もまた一秒たりとも遅刻はならず!」

教室めがけ走る和歌と
師がすれ違った瞬間
ビシバシと静電気が走ったという

やっぱり宇宙人?

感心される材料はこれだけにあらず
これまでに数多くの生徒の個に
出会ったが

この豊かな時代に
苦学生さながら
壊れたギターケースを背に
新宿―澁谷往復ジョギング通学

何事もインパクトの時代ではあるが

売り込み作戦
目算にしてはあまりに現実的

可哀想にと
いたく目に焼き付き
同情するに余りある

こんな女子生徒、見たこともないし
いたためしがない
職員室の驚きは頂点に達した

ご家庭の事情もあろうかと
講師の一言評価は
“健康和歌さん”

-が、ひとつ腑に落ちないことが・・・

電車代、バス代、定期代
支払い続けた交通費は
いずこへ?

そんなことはどこ吹く風
肩で風切って
ジョギング途上
風と共に去りぬだった

街路樹の並木道
木々の精霊はささやいた

汝、歩き通すのだ
どこまでも
さればいつの日か報われん

ダイエットと節約を兼ね
一石二鳥
ここにあっても、またしても
合理的な和歌だった